セミリタイアのシミュレーションは、年間の支出から働く収入と年金を差し引き、不足分を資産で何年まかなえるか確認する作業です。最初から高い運用利回りに頼らず、年金を受け取る前と後に分けて、年ごとの収支を並べると判断しやすくなります。
「3000万円あれば足りる?」「月10万円だけ働けば暮らせる?」という疑問も、住まい、税金、働ける期間で答えが変わります。この記事では、自分の数字を集める方法から、Excelやスプレッドシートで試算する手順、条件が悪化したときの見直し方まで整理します。
以下のモデル金額は計算方法を説明するための仮定で、誰にでも当てはまる必要資金や実体験ではありません。制度情報は2026年10月時点で確認しています。
- 家計簿と税・保険の見積もりから年間支出を作る方法
- 年金開始前後で収入と必要な取り崩しを分ける考え方
- 年次収支表に入れる項目と再現できる計算式
- 収入減・物価上昇・相場下落に備える確認手順
セミリタイアの試算条件を揃える

まずは「どの年に、いくら入って、いくら出ていくか」の材料を集めましょう。生活費だけを見たり、収入を額面のまま使ったりすると、少ない資産でも暮らせるように見えてしまいます。
生活費を月額から年額に直す
生活費の洗い出しは、今の家計簿をベースに、理想の暮らしで増える費用と減る費用を調整するのが近道です。可能なら直近12か月分の明細を確認し、月々の支出と年に数回だけ払う支出を分けます。
仕事用の衣服や外食が減っても、家にいる時間が長くなれば光熱費や趣味の出費は増えるかもしれません。賃貸なら家賃と更新費、持ち家なら固定資産税や修繕費も必要です。住宅ローンの返済は、元本分も含めて現金が出ていく額で記録します。
| 区分 | 入力する内容 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 月々の生活費 | 住居・食費・光熱・通信・日用品・交通・趣味 | 退職後に変わる費用を調整して12倍 |
| 年払い・不定期費 | 更新費、家電、車検、旅行、通常の医療費など | 毎月の家計簿に含めた分は再計上しない |
| 税金・社会保険 | 住民税、所得税、健康保険、年金など | 給与や年金から差し引かれる分との二重計上を避ける |
| 特別支出 | 大きな修繕、教育、引っ越し、介護など | 平均化だけで済ませず、予定年にも配置する |
計算例として、生活費が月20万円、年払い・不定期費が年8万円、税金・社会保険が年40万円なら、年間支出は20万円×12+8万円+40万円=288万円です。40万円は仮置きで、実際の税額・保険料を示す金額ではありません。
夫婦や子どものいる家庭は世帯全体で入力し、子どもの進学や住宅ローン終了など、支出が変わる年をメモしておきます。平均的な生活費を使うより、自分の明細に置き換えるほうが計画を修正しやすいですね。
税金と社会保険を見積もる
退職後の社会保険を「今の給与明細の保険料をすべて2倍」にして計算するのは適切ではありません。退職後も勤務先の社会保険に入る場合、任意継続を使う場合、国民健康保険や家族の扶養に入る場合で負担は変わります。
協会けんぽの退職後の健康保険の案内では、任意継続・国民健康保険・家族の健康保険を比較できます。国民健康保険は前年所得や世帯人数、自治体などで保険料が変わるため、退職初年度と、その後に所得が減った年度を分けて見積もります。任意継続には加入条件と申請期限があるので、退職前に確認しておきましょう。
国民年金も全員が同じ扱いではありません。国内に住む20歳以上60歳未満で、厚生年金に入らず、厚生年金加入者の配偶者として第3号被保険者にもならない場合は、原則として第1号被保険者の手続きが必要です。日本年金機構の加入案内で自分の区分を確認できます。
第1号被保険者の国民年金保険料は、令和8年度(2026年4月〜2027年3月)で月17,920円です。通常の月額を12倍すると1人分は年215,040円になります。これは当該年度の額で、前納・免除などの状況や将来の年度によって負担は変わります。根拠は国民年金保険料の変遷です。
住民税は前年の所得を基に算出されるため、退職した直後に収入が減っても、すぐ同じ割合で負担が減るとは限りません。横浜市の退職後の住民税の説明にもこの仕組みが示されています。具体額はお住まいの自治体と納税通知書で確認してください。
手続きの順番まで確認したい場合は、セミリタイア後の税金と年金の手続きを参考にしてください。このページでは、確認した額を試算表へ反映することに集中します。
働く収入と年金の条件を決める
働く収入は「いくら稼ぎたいか」だけでなく、「どの仕事を、何歳まで、どれくらい続けられるか」まで決めます。給与なら勤務日数や契約期間、個人事業なら売上から経費を引いた額を確認し、まだ実績のない副業収入は基本ケースに満額で入れないほうが現実的です。
収入と税・社会保険には、統一した記録方法が必要です。この記事の年次表では、給与・事業収入・年金を税金や社会保険の支払い前で置き、その負担を支出側にまとめます。個人事業の経費は売上から差し引き済みとします。手取り収入を使う場合は、すでに差し引かれた税・保険を支出側へもう一度入れないでください。
例えば額面の給与が月12万円なら年144万円ですが、家計に使えるお金が年144万円とは限りません。週に何日働く必要があるか、通勤費や仕事用の支出が増えないかも照合します。勤務先の社会保険に入る場合は、その本人負担分を支出の見積もりに反映します。
年金は「会社員を今のまま続ける」条件の見込額をそのまま使わないことが大切です。ねんきんネットの詳細な条件での試算では、今後の加入制度・収入見込額・就業期間・受給開始年齢を設定できます。予定している働き方に変えた場合の額を確認し、受給開始前の年に年金を計上しないようにします。
4%ルールの役割と限界を知る
4%ルールは「毎年必ず4%の運用益が出る」という意味ではありません。初年度に開始時の資産の4%を取り崩し、以降はその金額を物価に合わせて調整する考え方で、利益だけでなく元本を使う年もあります。毎年の残高の4%を使う方法とも違います。
元となるBengenの研究(FPA掲載PDF)は、米国の過去の株式・債券と物価データに基づく検証です。日本で今から長期間暮らす場合の成功を保証する条件ではありません。
セミリタイアの目安に置くなら、年間支出全体ではなく、働く収入などを差し引いた年間不足額を使います。年間支出288万円、労働収入144万円なら不足は144万円です。144万円÷0.04=3600万円、仮に3%で比較するなら144万円÷0.03=4800万円になります。
この2つは取り崩し率を変えた算術上の目安です。3%なら絶対に安全という意味でもありません。年金受給後に不足額が変わるケースを一つの倍率で正確に表すことはできず、税金・費用・資産配分・期間によって結果も変わります。
取り崩しを考える際の参考として、ニッセイアセットマネジメントのFIREと資産寿命に関する資料があります。一定の利回りを置いた計算は相場の上下を再現しないため、退職の可否はこの目安だけで決めず、後半の年次表でも確認しましょう。
年金開始前後を分けて計算する
45歳から働く量を減らし、65歳から年金を受け取るモデルで、資金の流れを確認します。45歳になった時点から65歳になるまでを20年間、65歳から90歳になるまでを25年間として数えます。90歳以降を計算しないことは、そこで生活が終わるという想定ではなく、まず置いた検証期間です。後で延ばして確認します。
| 期間 | 年間支出 | 労働収入・年金 | 年間不足 | 期間合計 |
|---|---|---|---|---|
| 45〜64歳の20年 | 288万円 | 労働収入144万円 | 144万円 | 2880万円 |
| 65〜89歳の25年 | 240万円 | 労働収入0円+年金120万円 | 120万円 | 3000万円 |
この例では不足額の合計が5880万円です。別枠の予備資金300万円を加えると、開始時の目安は6180万円になります。運用益・物価上昇は0として計算した例で、年金120万円や65歳以降の支出240万円は仮定です。
65歳以降は支出が年48万円減る条件を置いていますが、自然にその額だけ減るわけではありません。住宅ローン終了、働くための費用減、税・保険の変化など、実際に減る根拠がなければ支出を下げずに計算してください。60歳で国民年金の通常の納付が終わるなど、65歳以外の変化も年次表には個別に反映できます。
将来の修繕費などを支出へ入れ、同じ支払いのための予備費をもう一度足すと重複します。ここでの300万円は予定費用とは別の不測の事態に備える資金です。「通常の赤字をまかなう資金」「予定済みの特別支出」「未予定の予備資金」を区別しましょう。
資産額や世帯条件ごとの大まかな目安を先に知りたい方は、生活費と収入からセミリタイアの必要資金を計算する方法へ進めます。ここからは、合計額だけでは分からない途中の資金切れを確認します。
セミリタイア試算を表で検証する

同じ資産額でも、教育費や修繕費が先に来るのか、年金が先に入るのかで使えるお金は変わります。年間不足額の合計を出したら、次は各年の残高と、悪い条件のときに何を変更するかを見える形にします。
Excelで年次収支表を作る

ExcelやGoogleスプレッドシートに、次の列を作ります。金額は円でも万円でも構いませんが、表の途中で単位を変えないでください。1行を1年とし、開始年から検証終了年まで並べます。
| 列 | 項目 | 入力・計算の方法 |
|---|---|---|
| A・B | 年/その年の年齢 | 計算対象の年と年齢を入力 |
| C | 年初の試算資産 | 初年度の資産。翌年は前の年のI列 |
| D・E | 労働収入/年金収入 | 働く期間と受給開始年に合わせる |
| F | 通常の年間支出 | 生活費、年払い費、税・社会保険の合計 |
| G | 特別支出 | 修繕・教育など、その年だけの費用 |
| H | 運用損益 | 最初は0。損失はマイナスで入力 |
| I | 年末の試算資産 | C+D+E+H−F−G |
1行目が見出しなら、I2に =C2+D2+E2+H2-F2-G2、C3に =I2 を入れます。I2の式を下へコピーし、C列には前年末の資産が入るようにしてください。運用なしのモデルはH列を0にするので、収支の差がそのまま残高に反映されます。
仮に金融資産3000万円のうち予備資金300万円を別管理するなら、C2は2700万円です。年間支出288万円、労働収入144万円、年金・特別支出・運用損益0の最初の3年は、次のようになります。
| 年齢 | 年初資産 | 労働収入 | 通常支出 | 年末資産 |
|---|---|---|---|---|
| 45歳 | 2700万円 | 144万円 | 288万円 | 2556万円 |
| 46歳 | 2556万円 | 144万円 | 288万円 | 2412万円 |
| 47歳 | 2412万円 | 144万円 | 288万円 | 2268万円 |
この条件が続けば、年金開始前に試算資産を使い切ります。別管理の300万円まで使うと予備資金がなくなるため、「3000万円あるから安心」と判断できません。残高が負になった行は、借金で生活できるという意味ではなく、前提を見直す必要がある印です。
退職金は確定した受取額と時期で入れます。自宅など売る予定のない資産は生活資金として足さず、受け取れる時期に制約のある資産も退職直後の現金とは分けてください。現金と運用資産を併用する場合は補助列を作り、運用損益を現金まで含めた総資産へ一律にかけないようにします。
年単位の表で問題がなくても、退職直後の納税や引っ越しで手元資金が足りないことがあります。最初の1〜2年と大きな支払いがある年だけ月次表に分け、入金日・支払日も確認すると、年末残高では見えない不足を拾えます。
基準と悪化ケースを比較する
最初は運用損益0の基準表を作り、コピーして条件を一つずつ変えます。収入を下げるケース、生活費を上げるケース、相場下落のケースを比較して、どの前提が計画を支えているのか確認しましょう。
| 確認する条件 | 変える数字の例 | 読み取ること |
|---|---|---|
| 働く収入が減る | 年144万円を年72万円に変更 | 年間不足は144万円から216万円へ増える |
| 生活費が上がる | 年240万円の生活費を毎年2%増加 | 同じ暮らしに必要な支出が年々増える |
| 運用資産が下がる | 初年度の運用部分だけ20%下落 | 退職直後の損失と取り崩しが重なる影響 |
| 長く暮らす | 90歳までの表を95歳・100歳まで延長 | 年金開始後の不足を何年まかなえるか |
これらの数字は将来予測ではなく、弱い条件でも計画が成り立つかを見るための設定例です。個別に影響を確かめた後、収入減と物価上昇が同時に起きるケースも試してください。すべての年に同じ高い利回りを入れると、悪化した計画が数字の上だけで解決してしまいます。
特に取り崩し開始直後の下落には注意が必要です。運用部分が2000万円で20%下がる仮定なら、評価額は1600万円です。そこから生活費の不足分144万円を使うと1456万円になります。後の相場回復があっても、すでに使った資産は運用を続けられません。
仕事の契約が切れたら収入が何か月止まるか、働けなくなったらどこまで支出を減らせるかも追加します。難しい確率計算ができなくても、いくつかの悪化条件を具体的に入力するほうが、理由のない「余裕を持っておけば大丈夫」より役立ちます。
物価上昇と特別支出を反映する
年2%の物価上昇が10年続くと仮定した場合、現在の月20万円の生活費は 20万円×1.02^10 で約24.38万円になります。年間では約292.56万円です。これは税・保険を除いた生活費だけの試算で、将来の物価上昇率を断定するものではありません。
表では、生活費部分に 現在の年間生活費×(1+仮定した上昇率)^経過年数 を使い、税・保険や住宅ローンは別に計算して合計します。収入も物価と同じ率で増えると自動設定せず、契約や見込額に合わせてください。
金額を将来の円で増やす方法と、現在の購買力に換算して扱う方法を混ぜないことも大切です。例えば、運用利回りをすでにインフレ調整した値にしたうえで生活費も毎年同じインフレ率だけ増やすと、物価の影響を二重に織り込むおそれがあります。初心者はまず将来の円に統一し、収入・支出・資産を同じ基準で記録すると整理しやすいですね。
修繕・教育・介護などは、すべてを毎年一定額の予備費へまとめず、分かる範囲で発生年と金額を置きます。時期が不明なら「早く必要になったケース」を別に作り、予定より前にお金が出ても資金が持つか確認しましょう。
計算ツールは前提を揃えて使う
自分で作った表の計算を確認したい場合は、野村證券の「みらい電卓」生活編など、取り崩しの試算ができるツールを使えます。資産額、引出額、想定利回りなどの条件を合わせ、毎月の不足を一定にした場合の見通しを照合する用途です。
ただし、一定の引出額で計算するツールの結果を、年金開始で収入が変わる自分の表とそのまま比較してはいけません。期間を分ける、特別支出を別に管理するなど、条件を合わせる必要があります。税金・運用手数料・インフレを含むかは、各ツールの注意書きで確認してください。
結果が違ったときは、年利と月利、取り崩しの時期、年齢の数え方、単位、予備資金の扱いから確認します。税金を支出へ入れたまま収入にも手取りを使っていないか、配当を収入として足し、同じ配当を含む運用損益も加えていないかも点検しましょう。
ツールで資産寿命が長く表示されても、将来の投資成果は保証されません。入力条件を変えたとき、どの年に資金不足が起きるかを把握するために使います。
試算から退職条件を決める
資金が足りない場合は、想定利回りを上げるよりも、開始時期、生活費、働く収入、働く期間を順に調整します。例えば年間支出を12万円減らせるなら、運用なしでも20年間で240万円分の不足を減らせます。ただし、節約を無理なく続けられるかは別の確認が必要です。
仕事を減らす前に、予定の生活費で数か月暮らしてみると、机上の予算と実際の支出の差が分かります。趣味や人との付き合いまで切り詰めないと成立しない場合は、資金だけでなく暮らし方の前提も変更したほうが続けやすくなります。
- 年金開始前と後の両方で、資金が不足する年を確認した
- 税・社会保険の見積もりと予定する働き方が一致している
- 大きな支出と予備資金を重複させずに確保した
- 収入減と物価上昇が重なる場合の調整策を決めた
- 手元資金が一定額を下回る前に、支出や仕事を見直す基準を決めた
見直し基準は、例えば「実際の年間不足が予定を超えたら翌年の勤務日数を再検討する」「予備資金を使う前に固定費を見直す」のように、行動まで結びつけます。医療や介護、家族構成の変化が起きたときは、定期見直しを待たずに再計算しましょう。
収入源や再就職も含めた備えを確認するなら、セミリタイアのリスクと準備・対策も役立ちます。働く時間を増やすことや開始を遅らせることも、暮らしを守るための選択肢です。
セミリタイア試算は更新して使う
セミリタイアのシミュレーションは、一つの必要資産額を当てることより、支出・収入・年金が変わったときに自分で計画を直せることが大切です。まずは直近の家計明細、税・保険の見積もり、予定する働き方に合わせた年金見込額を集め、運用損益0の年次表を作ってみてください。
その表で資金が不足する時期を確認し、条件を一つずつ変えて、無理の少ない働き方と支出の組み合わせを探します。半年〜1年ごとの見直しに加え、大きな生活の変化があったときも更新すれば、憧れの暮らしを数字で検討できるようになります。
